トイレの排水が悪くなる原因は様々ですが、近年、特に増えているのが「水に流せる」と謳われた製品による詰まりです。トイレ用お掃除シート、おしりふき、ペットのトイレ砂など、便利さから多くの家庭で使われていますが、その「流せる」という言葉を鵜呑みにすると、高額な修理費用を伴う深刻なトラブルを招く可能性があります。 なぜ、これらの製品は詰まりの原因になりやすいのでしょうか。その答えは、トイレットペーパーとの構造的な違いにあります。日本のトイレットペーパーは、水に触れると繊維が素早くバラバラになるように、厳格な工業規格(JIS規格)に基づいて作られています。これにより、排水管の中でスムーズに分解され、流れ去っていくのです。 一方、「水に流せる」と表示されている製品の多くは、使用中に破れたりしないよう、ある程度の強度を持たせる必要があります。このため、水に濡れても簡単には分解されないように作られているのです。もちろん、メーカーも詰まりにくいように工夫はしていますが、トイレットペーパーほどの速さで水に溶けるわけではありません。その結果、排水管のカーブ部分や、わずかな汚れの突起に引っかかり、そこに後から流れてきたものと絡み合って、詰まりの芯となってしまうのです。 この問題は、近年の節水型トイレの普及によって、さらに深刻化しています。節水型トイレは、少ない水量で効率よく流す設計になっていますが、この「少ない水量」が、溶けにくい「流せる」製品を排水管の奥まで運びきる力を弱めてしまいます。古いタイプのトイレなら問題なく流れていたものでも、節水型トイレでは途中で留まってしまうリスクが高まるのです。 トイレ詰まりを防ぐための最も確実な方法は、昔ながらの原則に立ち返ることです。それは、「トイレには、排泄物とトイレットペーパー以外は絶対に流さない」というルールです。もし「流せる」製品を使うのであれば、パッケージに記載されている「一度に一枚まで」といった注意書きを厳守することが最低条件ですが、最も安全なのは、使用後にゴミ箱に捨てる習慣をつけることです。詰まりを修理する手間と費用を考えれば、そのわずかな一手間が、結果的に最も賢明な選択と言えるでしょう。
流せるはずが流れないトイレ排水詰まりの罠