築十五年の中規模マンションで管理組合の役員を務めていた際、私はある深刻な問題に直面しました。複数の住人から、給湯器を使用したり水を止めたりする際に、壁の中からドンドンという音が響いてきて眠れない、あるいは自分の家の音が隣に迷惑をかけていないか不安だという苦情が相次いだのです。このマンションは鉄筋コンクリート造で遮音性は高いはずでしたが、配管を通じて伝わる固体伝搬音は、想像以上に他の住戸へ響き渡っていました。当初、これは個別の住戸の問題だと思われていましたが、調査を進めるうちに、マンション全体の配管設計と各戸に設置されている最新の給湯器、そして水栓器具の相性が原因であることが浮き彫りになりました。特にリフォームを済ませて最新のシングルレバー水栓や全自動の節水型洗濯機を導入した部屋ほど、衝撃音の発生頻度が高いことが判明したのです。私たちはまず、提携している設備会社に依頼して、数件のモデル住戸で詳細な調査を行いました。その結果、共用部から各住戸へ引き込まれる水圧が、上層階まで水を届けるためにかなり高めに設定されていることが、ウォーターハンマー現象を助長していることが分かりました。対策として検討されたのは、各住戸のパイプシャフト内に減圧弁を設置する方法と、衝撃音が発生している具体的な箇所に水撃低減器を取り付ける方法の二段構えでした。管理組合としては、まず広報紙を通じて、住人の方々に「蛇口をゆっくり閉める」という意識的な協力をお願いすると同時に、希望する住戸に対して一斉に低減装置を設置する計画を立てました。実際に工事を行った事例では、キッチンの混合水栓の根元と、給湯器の給水配管に小型の圧力吸収装置を取り付けました。この装置は内部に特殊なゴム製のダイヤフラムと窒素ガスを封入しており、急激な圧力変動を物理的に相殺する仕組みになっています。施工後のアンケートでは、九割以上の住人が「音が全く気にならなくなった」あるいは「大幅に軽減された」と回答しました。中には、それまでお風呂にお湯を張る際の音がストレスで、夜遅い時間の入浴を控えていたという方もおられましたが、工事後は安心して生活できるようになったと喜んでいただけました。この事例から学んだのは、集合住宅における音の問題は個人の責任だけに帰せられるものではなく、建物全体のインフラと現代の生活スタイルとのギャップから生じる場合があるということです。特に、ドンドンという衝撃音は建物構造に直接振動を与えるため、長期的には共用配管のジョイント部分の緩みや疲労を招き、建物全体の資産価値を下げるリスクもあります。
集合住宅で発生するドンドンという給湯器の音を解決した事例